《 株式会社マロー・サウンズ・カンパニー|田中紘太代表 》
介護保険の福祉用具貸与・販売の見直しに向けた検討を進めている国の有識者会議が、28日に開催されました。【田中紘太】
厚労省は今回、福祉用具を貸与で使うか、あるいは販売で使うかを利用者が自ら選べる「選択制」の導入を提案。あわせて、具体的な仕組みの概要も示しました。会合では、これらの是非が熱心に議論されました。
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私が取り上げたいポイントは2つです。1つは「選択制」の対象となる種目。固定用スロープ、歩行器、単点杖、多点杖などがあげられ、従来から俎上に載せられていた手すりが入っていなかったのが特徴的でした。
手すりについては、これまでの議論で過剰な複数利用が問題視されていた経緯があります。ただ今回は、その件が触れられることは少なかったです。
手すりは単位数が大きいことなどもあり、貸与から販売へ切り替わると貸与事業者への影響も大きいと思われていました。事業者らの慎重論もあって、ここで「選択制」の対象から除外される形となりました。
もう1つのポイントは、実際に利用者に貸与か販売かを選んでもらう仕組み・プロセスです。厚労省は次のような趣旨の案を提示しました。
◯ 介護支援専門員や福祉用具専門相談員が、サービス担当者会議などを通じて利用者に販売か貸与を提案し、利用者の合意に基づき方針を決定することとしてはどうか。
◯ その提案にあたっては、取得可能な「医学的な所見」や他の類似の「利用状況に関するデータ」などを活用し、利用者の身体状況や福祉用具の利用状況などの変化が想定される場合については、貸与を提案することとしてはどうか。
◯ 介護支援専門員や福祉用具専門相談員は、貸与を選択した場合でも、例えば6ヵ月ごとにサービス担当者会議などを通じて、必要な場合は貸与から販売へ切り替えることを提案することとしてはどうか。
私は会合で、特に6ヵ月ごとにサービス担当者会議などで協議・提案するということへの反対意見を述べました。
これらが実現された場合、ケアマネジャーの業務負担が非常に大きくなる懸念があるためです。ケアプランに固定用スロープ、歩行器、杖などを位置付ける場合に、ケアマネジメントプロセスが大きく変わることになるでしょう。情報開示などにて主治医意見書を取得する、またはかかりつけ医に「先生のご所見をお伺いさせて頂きたい」などと照会し、回答が得られた後でサービス担当者会議を開催することになります。
また、こうした調整を6ヵ月ごとに繰り返し行っていかなければなりません。これでは、現場がますます疲弊してしまうのではないでしょうか。
過去を振り返ると、以前は居宅介護支援事業所の運営基準に「福祉用具貸与をケアプランに位置付けた場合には、6ヵ月ごとにサービス担当者会議を開いて必要性を確認する」といったルールが存在していました。ただこれは、国の審議会での議論を経て2008年9月の通知で削除されています。関係者から業務の大変さを問題視する声が多くあがったためです。
今回の厚労省の提案は、こうした現場の負担軽減を図る流れに逆行するものではないでしょうか。「選択制」の導入そのものに強く反対するわけではありませんが、ケアマネジャーらの負担を増やす見直しはぜひ避けて頂きたいと存じます。
以前は8月末(今回)で議論を取りまとめる、としていた有識者会議は次回も続くことになりました。その後、来年度の介護報酬改定に向けて審議会で具体策が議論されていく運びとなるでしょう。福祉用具の「選択制」の導入は、ぜひケアマネジャーにも大きく注目して頂きたい改革テーマです。
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