《 国際医療福祉大学大学院・石山麗子教授 》
来年度の介護報酬改定の議論が大詰めを迎えています。【石山麗子】
11月6日の国の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)では、居宅介護支援のケアマネジャーの「他のサービス事業所との連携によるモニタリング」が議論されました。厚生労働省が示した対応案の抜粋は次の通りです。
《 厚労省の対応案 》
少なくとも月1回(介護予防支援の場合は3月に1回)の訪問によるモニタリングを原則としつつ、一定の要件を設けたうえで、テレビ電話などを活用したモニタリングを行うことも可能としてはどうか
■ 要件(案)
(1)利用者の同意を得ること
(2)サービス担当者会議などで主治医、サービス事業者らから以下の合意が得られていること
◯ 利用者の状態が安定していること(主治医の所見も踏まえ、頻繁なプラン変更が想定されないなど)
◯ 利用者がテレビ電話などを介して意思表示できること(家族のサポートがある場合も含む)
◯ テレビ電話などを活用したモニタリングでは収集できない情報について、他のサービス事業者との
連携により収集する(*)こと
* 情報連携シートなど一定の様式を用いた仕組みを想定
(3)少なくとも2月に1回(介護予防支援の場合は6月に1回)は利用者の居宅を訪問すること
ケアマネジャーが担当している利用者のうち、オンラインモニタリングの適用対象者はまだ多くないでしょう。なぜなら、利用者とケアマネジャーの双方にオンライン環境が整っていて、機器の操作もできなければならないからです。
オンラインモニタリングの情報収集は、パソコンなどの画面越しの情報に限定されます。ですから、それを補うために多職種との情報連携が必要不可欠となります。回数も少なくとも2月に1回とされています。これらの要件から、オンラインモニタリングを行う利用者像は、心身状態が安定している方となるでしょう。
オンラインモニタリングと、訪問による対面モニタリングとを比較すると、得られる情報量は訪問による対面が圧倒的です。
対面では利用者宅の温度・湿度、臭い、採光、室内の明るさ、室内の物品、他の部屋の雰囲気などを把握できます。また、利用者宅へ向かう途中で、近所の環境変化や利用者の家の外観、庭の状況、郵便受けなども確認できます。
それなのになぜ、オンラインモニタリングを取り入れる必要があるのでしょうか。
厚生労働省の提案資料には、「人材の有効活用」「サービス事業所との連携促進によるケアマネジメントの質の向上」という2点が示されています。そこから汲み取れるのは、昨今のケアマネジャー不足に対応する施策の1つであり、ケアマネジャーの業務負担を軽減する施策でもあるということです。
居宅のケアマネジャー1人あたりの1ヵ月の労働投入時間を2009年と2022年で比べると、全体で24.7時間減少し、訪問にかける時間は6.8時間も減少していました(表)。働き方改革などにより、全体の労働時間は少なくなっていますが、ケースはより複雑化しています。実際、個別のケアマネジメントにかけている時間は増加していました。この数字を見ると、ケアマネジャーがいかに時間を圧縮し、努力して業務をやりくりしているか想像に難くありません。
一方で利用者の意向も大切です。オンラインモニタリングの実証事業に参加した利用者の実施意向は、「実施したい(42.3%)」よりも「実施したくない(56.7%)」が多い結果でした(資料P42)。
厚労省案では、あくまでも現行の訪問によるモニタリングが原則となっています。来年度の改定でオンラインモニタリングも可能となった場合、個々の利用者の意向と利用者にとってのメリットをケアマネジャーと多職種で確認する必要があるでしょう。あわせて、その人がどのような状態や状況になった時に訪問・対面のモニタリングに転換するか、予測に基づく話し合いを行っておく必要もあるでしょう。
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