【介護報酬改定】老健の生存競争が激化する
プラス改定ムードにあぐらをかいてる場合じゃない=小濱道博

  2023/12/05
         

《 小濱介護経営事務所|小濱道博代表 》



◆ 収支差率がマイナス
今年度の「介護事業経営実態調査」の結果で、特別養護老人ホームと介護老人保健施設の収支差率がマイナスとなった。これにより介護施設では、来年度の介護報酬改定での大幅なプラス改定を期待する声が高まっている。【小濱道博】

しかし、介護施設に多くの介護報酬を配分するとした場合、その割を食って小規模なプラス、もしくはマイナスとなる介護サービスも出てくるだろう。このため、運営法人全体での引き上げ幅はそう大きくはないと推察している。


介護施設の収支差率はもともと、介護報酬改定の度に減少する傾向があった。それがコロナ禍と物価高騰の影響で、一気にマイナスへ転換したということだ。厚生労働省は施設から在宅への方針を着実に実施している。

◆ 楽観ムードに釘。一律のプラス改定はない
介護業界内では、マスコミによるプラス改定の報道が相次いだこと、業界団体が大幅なプラス改定を訴えていることなどによって、楽観的なムードが漂っている。

しかし、現時点では処遇改善加算分のプラスが確定しているにすぎない。全体的な引き上げがどれくらい行われるかは、未だ予断を許さない状況だ。

介護保険の財源の半分は、国民負担の介護保険料で賄われている。介護報酬の引き上げは、そのまま介護保険料の引き上げにもつながるのだ。

今回の介護報酬改定の審議では、何度も「メリハリ」という言葉が飛び交っている。すなわち、どこかを引き上げたらどこかを引き下げてバランスをとる、ということだ。

実際に、同一建物減算の強化などによって収入がダウンする事業者も出てくるだろう。皆が一律でプラスになることはないのだ。

◆ 多床室料の自己負担化が現実となる
そのため、介護施設も楽観できない状況にある。

老健と介護医療院では多床室料の自己負担化が現実となる。老健では療養型とその他型が対象となる。低所得者に配慮し、利用者負担第1?・第3段階の人は補足給付で利用者負担を増加させないとされたが、確実に長期滞在型の老健の経営を直撃する。

多床室料が全額自己負担となった場合、特養の利用者負担額との差が大きくなり、老健の長期滞在者は割安感の増した特養へ移動するだろう。

老健の介護報酬が特養より明らかに高いにも関わらず、この長期滞在型の事業運営が維持できる理由は何か−。

それは、老健では多床室に介護保険が適用されているため、特養の実質的な支払い額との格差が少ないためだ。今、特養では待機者が大きく減少して空床も生じている。新規の受け入れは可能で、入所者の移動が起こると想定される。

さらに老健では、下位区分の報酬単位の引き上げを少なくして、上位区分の基本報酬を引き上げることも検討されている。特養化した長期滞在型の経営モデルが破綻する可能性は高まっている。

◆ 上位区分の難易度も高まる
老健では、在宅復帰・在宅療養支援機能の強化が行われる。在宅復帰・在宅療養支援指標の中で、入所前後訪問指導割合と退所前後訪問指導割合に関する指標を引き上げる方向が、国の審議会で示された。

また、支援相談員の配置割合の指標について、社会福祉士の配置を評価するとされた。特養の生活相談員は社会福祉士資格などを求められており、そのハードルは高いが、老健の支援相談員については社会福祉士資格などを求められていない。

指標で社会福祉士資格を求めるということは、かなりの意識改革であろう。基本報酬の上位区分を算定する施設も、更なる向上を求められることになる。

いずれにしても、来年度の介護報酬改定は激変の改定となる。経営陣のマネジメント能力もこれまで以上に問われるだろう。介護報酬改定の審議も終盤を迎えた今、情報収集と分析が急務となっている。プラス改定ムードにあぐらをかいてはいられないのだ。



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