《 株式会社マロー・サウンズ・カンパニー|田中紘太代表 》
今月18日に開催された国の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)で、来年度の介護報酬改定の「審議報告」がまとめられました。【田中紘太】
審議報告は83ページにも及びます。全てを細かく見るのは労力を要すると思いますが、冒頭の目次の他にも、サービスごとに分けた改定事項の一覧が後半に用意されています。非常に分かりやすくまとめられていると感じました。
各サービスの改定事項は多岐にわたります。居宅介護支援・介護予防支援も例外ではなく、非常に大きな改定となりました。
特に、居宅介護支援事業所が介護予防支援事業所の指定を受けることで起こりうる矛盾を解消するため、制度の整合性を合わせる内容も多かったように感じます。
もちろん、給付管理を行う立場であるケアマネジャーは、全サービスの変更点を知っておく必要があるでしょう。ただまずは、居宅介護支援の改定の中身をしっかり押さえておかなければいけません。
本来なら全てを取り上げたいところですが、それだと膨大なボリュームになってしまいます。ここでは一部を抜粋し、特に重要な3点を解説していきたいと思います。
◆ 特定事業所加算、心理的にも負担減に
まず、大きなポイントは特定事業所加算の見直しです。概要は次の通りとなります。
居宅介護支援の特定事業所加算の見直し
◯ 多様化・複雑化する課題に対応する取り組みを促進する観点から、「ヤングケアラー、障害者、生活困窮者、難病患者など他制度に関する事例検討会、研修に参加していること」を要件にするとともに、評価の充実を行う。
◯(主任)介護支援専門員の専任要件について、事業所が介護予防支援の提供や地域包括支援センターの委託を受けて総合相談支援事業を行う場合は、これらとの兼務が可能である旨を明確化する。
◯ 事業所の確認作業などの手間を軽減する観点から、運営基準減算に関する要件を削除する。
特に注目すべきは3つ目、「運営基準減算の適用を受けていないこと」という要件が削除されることでしょう。
居宅介護支援事業所を経営するうえで、特定事業所加算を算定しないと黒字化できないことは国の調査結果でも明らかになっています。その特定事業所加算を算定する際に大きなリスクとなるのが、「運営基準減算の適用を受けていないこと」という要件です。
経営を大規模化すればするほど、収益に占める特定事業所加算の割合が高くなります。そこで万が一、1件でも運営基準減算があるとその月の特定事業所加算を全て返還しなければなりません。過去にも運営基準減算があれば、損失は更に大きくなってしまいます。
これは極めて重大な経営リスクです。そのため、減算がないか毎月2重、3重に何度も書類をチェックしている事業所も少なくないでしょう。
もちろん、今後も運営基準減算がないように業務管理、書類整備を適切に行っていくことは不可欠です。ただ今後は、居宅介護支援事業所の経営者・管理者の心理的負担はかなり軽減されるはずです。これはありがたい見直しと言えるのではないでしょうか。
◆ 介護予防支援、指定を受けるか否か
次に目に入るのは、居宅介護支援事業所が介護予防支援事業所の指定を受ける際に、不利益がないよう整合性がとられている部分です。ここで注目すべきは次の見直しでしょう。
介護予防支援の基本報酬
「市町村長に対し、介護予防サービス計画の実施状況などの情報を提供することを運営基準上義務付ける。それに伴う手間やコストを評価する観点から、新たな区分を設ける」
まだ具体的な単位数が公表されていないため、介護予防支援事業所としての指定を受けるべきかどうか悩んでいる事業所が多いのが実情です。市町村の担当者も、積極的に指定を受けるよう事業所へ働きかけるのを迷っていると感じます。このまま委託で、と考えているケースも多いのではないでしょうか。
そこで新しく出てきたのが、直接指定を受けると委託よりも単位数が上がると思われる新区分の設定です。単位数が高くなるのであれば、指定を受けようとする事業所も増えるのではないでしょうか。
とはいえ、単位数次第の部分はやはり否定できません。そこが発表されてからの経営判断で良いと考えます。
また、想定できるデメリットとしては、介護予防支援の指定を受けたことで発生する事務負担があります。例えば、運営指導を居宅介護支援、介護予防支援の双方で受けないといけない、運営規定・シフト表といった関係書類を別に準備しないといけない、などが考えられます。
もちろんこの辺りは、現場の業務負担を考慮した解釈通知やQ&Aが国から発出されると考えられます。介護予防支援の指定を受ける際は、この辺りの動向も慎重に判断すべきではないでしょうか。
◆ オンラインモニタリング、まずは事前確認を
次はオンラインモニタリングについてです。これを実施できる要件として、「家族のサポートを含め、利用者がオンラインで意思疎通できること」「他のサービス事業所と連携すること」などが定められます。
現時点で事業所として行えることは、オンラインモニタリングを実際に活用できるご利用者様がどの程度いるかの事前確認でしょう。同意しない方もいれば、ご利用者様、ご家族様から積極的に希望される場合もあるかもしれません。
弊社では既にアンケート調査を実施しました。その結果をみると、オンラインモニタリングを活用できるご利用者様は思った以上に少なかったです。
こうした事前確認に加えて、ご利用者様、ご家族様から同意を得る際の同意書の作成も欠かせません。多職種の同意をどう得るのか、状態が安定していることを主治医らにどう確認するのかなど、今からできる準備を更に行っていくことも必要でしょう。
以上、今回の記事では大きく3つのポイントしか解説できませんでした。これから来年度に向けて、残りの重要な改定事項についても更に解説していければと考えています。
= 2024年度の報酬改定事項 =
《居宅介護支援》
◯ 特定事業所加算の見直し
◯ 居宅介護支援事業者が市町村から指定を受けて介護予防支援を行う場合の取扱い
◯ 他のサービス事業所との連携によるモニタリング
◯ 入院時情報連携加算の見直し
◯ 通院時情報連携加算の見直し
◯ ターミナルケアマネジメント加算等の見直し
◯ 業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入
◯ 高齢者虐待防止の推進
◯ 身体的拘束等の適正化の推進
◯ ケアプラン作成に係る「主治の医師等」の明確化
◯ テレワークの取扱い
◯ 公正中立性の確保のための取組の見直し
◯ 介護支援専門員1人当たりの取扱件数(報酬)
◯ 介護支援専門員1人当たりの取扱件数(基準)
◯ 同一建物に居住する利用者へのケアマネジメント
◯ 特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算及び中山間地域に居住する者へのサービス提供加算の対象地域の明確化
◯ 特別地域加算の対象地域の見直し
《全サービス共通》
◯ 人員配置基準における両立支援への配慮
◯ 管理者の責務及び兼務範囲の明確化等
◯ いわゆるローカルルールについて
◯「書面掲示」規制の見直し
※当記事は掲載日時点の情報です。