【本質】介護報酬改定、鮮明になった大規模優遇 過去最大の激変で求められる経営努力=小濱道博

  2024/1/5
         

《 小濱介護経営事務所|小濱道博代表 》



1、前回を下回る改定率と2月からの補助金

12月20日に決定した来年度の介護報酬改定率は、事業者にとって現実的には0.61%のプラスにとどまった。この数字は、前回の0.7%を下回る。近年の物価上昇を考えると、実質的にマイナス改定であると言わざるを得ない。【小濱道博】

公表された改定率の1.57%には、介護職員の処遇改善に充てる分の0.98%が含まれている。2月から実施される月6千円相当の新たな処遇改善も、この0.98%の中に組み込まれる。「処遇改善支援補助金」として5月まで実施され、6月からは一本化される新たな「処遇改善加算」に統合される。

問題は事務負担である。一本化される「処遇改善加算」の算定準備を含めると、事務負担が同時期に集中することとなる。このことを嫌って、あえて支援補助金は受給せず、6月の「処遇改善加算」からの算定を選択する事業所も出てくるのではないか。

また、介護職員の6千円の賃上げは2%程度に相当するとされている。この数字は、日経新聞の「賃金動向調査」による賃上げ率(3.89%)に遠く及ばない。いずれにしても、介護事業者は自社努力による経営改善を強く求められる結果となった。

2、生産性向上が重くのしかかる

来年度の報酬改定では、介護施設などに生産性向上委員会の定期開催が3年間の経過措置付きで義務化される。「処遇改善加算」の算定要件である「職場環境等要件」も、生産性向上の取り組みを現場サイドに強く求める内容へ見直される。

例えば、業務改善の体制構築、職場課題の見える化、いわゆる「5S活動」、情報共有、介護記録ソフトの活用、介護ロボットの導入、介護助手の配置といった取り組みが求められる。

ある経営者は、会議開催の義務化自体が業務負担だと言ったが、現場では負担が増した感が強い。

たしかに、ICT化に取り組めば業務改善が進む可能性は高い。しかし、補助金を用いたとしても費用負担は重くのしかかる。その補助金の支給対象も、ハードからソフトに重点化しつつあって、機材の購入費用に活用しにくくなっている。

仮にICT化が実現できたとしても、高齢化した介護職員が使いこなせないという現実に直面する場合も多いだろう。理想と現実のギャップをどう埋めるか ? 。これが重要な経営課題となる。

3、算定要件の簡素化、程遠い内容

今回の報酬改定の論点には、制度の簡素化、業務負担の軽減があったはずである。しかし、多くの加算の算定要件が変更されたが簡素化には程遠く、逆に現場の混乱を招きかねない。

上位区分が新たに設けられた加算も多くある。この場合、既存区分の単位が引き下げられ上位区分へ付け替えられるため、収入が減少するケースも起こるだろう。結果として算定要件が簡素化されたという実感は無くなり、さらに複雑化したという印象が強くなる。

従来の報酬改定は、既存の加算にはほとんど触れることがなかった。そのため、新設の加算を算定しなければ日常業務は従来通りでよかった。

しかし、前回の改定あたりから、既存の加算の要件が変更されるケースが出始めた。そのことを知らずに従来通りの業務を続けた結果、運営指導で返還を求められるケースも出ていたのだ。多くの加算の算定要件が変更される今回は、前回以上の注意が必要となってくる。

また、今回の報酬改定の施行時期はサービスによって異なることになった。訪問看護、訪問リハ、通所リハ、居宅療養管理指導の4サービスは6月1日の施行で、それ以外のサービスは従来通り4月1日から施行される。ただ、処遇改善加算の一本化は6月からとなる見通しだ。こうしたスケジュールの違いも現場の負担増を招くため、よくよく注意する必要がある。

4、大規模事業者が有利に

居宅介護支援事業所は、介護支援専門員1人あたりの取り扱い件数が見直される。これまでの39件から44件に拡大されるほか、ケアプランデータ連携システムの導入など一定の要件を満たせば49件まで認められる。また、介護予防ケアプランのカウントが2分の1から3分の1となることも賛否両論が渦巻く。

間違いなく言えることは、この改定が大規模な居宅介護支援事業所にとって非常に有利であるということだ。ICT化を促進し、事務員を配置し、ケアプランデータ連携システムを導入していれば、業務効率化が促進されるため担当件数の拡大は容易である。

もちろん、ケアマネジャー個々人のスキルや担当の難易度などに左右されるが、全体的に担当件数の底上げは容易である。業務改善を進めたうえで、ケアマネジャー1人あたりの売上を80万円近くまで拡大することも可能なのだ。ケアマネジャー10人体制なら年商1億円も視野に入ってくる。

逆に、小規模な居宅介護支援事業所にとって担当件数の増加は重荷となる。新たなオンラインモニタリングの活用も同様である。

今回の改定で、小規模事業所と大規模事業所の収益性の格差は一層拡大していく。同一建物減算の適用の方向も、小規模事業所にとっては逆風となるだろう。

このほか、例えば通所リハでは大規模減算の縮小が打ち出された。こうした大規模化推進の傾向は、介護サービス全体に言えることだ。小規模事業所ほど対応に苦慮する改定となったことは否めない。

コロナ禍が終わり、世界は明らかに新たな時代へと移行していっている。介護業界も例外ではない。今まさに過去最大の激変が起きている。

※当記事は掲載日時点の情報です。                       

"介護ニュースJoint引用"