《 全国介護事業者連盟・斉藤正行理事長 》
新年度の介護報酬改定の最も大きなテーマは処遇改善です。全体改定率(1.59%)の大部分(0.98%)が処遇改善に配分され、関連加算は一本化されました。今回は、介護従事者の立場からみた処遇改善施策の諸課題を整理したいと思います。【斉藤正行】
まず、今回の処遇改善の概要をごく簡単にご紹介します。
これまで「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ加算」の3種類だった関連加算が、6月から新たに「介護職員等処遇改善加算」へ一本化され、金額も大きく拡充されます。新年度で2.5%、来年度で2.0%の賃上げにつながる水準です。この新加算では、介護職員以外の職種への柔軟な配分も認められることになりました。
◆ 求められるより丁寧な説明
介護従事者にとって最も大きなポイントは、新加算が事業所・施設の中で適切に配分されているかどうかでしょう。多くの介護従事者は、法人による分配方法に不信感を抱いています。
加算額が全て配られていないのではないか? 別の使われ方をしているのではないか? 理事・役員の所得に回っているのではないか?
全国各地の多数の介護従事者から、このような疑問の声があがっています。
その背景には、これまで関連加算が3種類もあったこと、かつ制度が複雑で職員へ伝えることが困難だったことがあります。多職種への配分、賞与や一時金での支給、社会保険料の負担などを含めて様々なルール・要素があり、介護従事者が働きながら仕組みを理解するのは非常に大変です。
また、事業者が必ずしも丁寧な説明を行えていないことも大きな課題だったと言えるでしょう。今回のシンプルな加算への一本化を契機に、より丁寧な説明の実施が求められることになります。
◆ 職場内配分の難しさ
こうしたなか、非常に難しい課題の1つが加算の多職種への配分です。
処遇改善加算の本来の趣旨は、介護職員の賃上げにほかなりません。しかしながら、事業所・施設では他職種連携が非常に重要であり、多くのサービスでは多様な職種の従事者が働いています。その中で、介護職員だけに限って処遇改善を行うとなると不公平ですから、加算は他職種に配分できることになっています。
従来の3種類の加算はそれぞれ、多職種への配分ルールが異なっていました。それが今回の新加算では、介護職員への配分を基本としつつも、多職種への配分を事業者の裁量で柔軟に行えることとなりました。つまり、加算額全体を自由に配分できるようになったのです。
介護職員からは、多職種へ配分されて自分達の取り分が目減りすることへの不満が多く聞かれます。他方で多職種からは、チームケアである以上は自分達にもしっかりと配分して欲しいという要望が出ています。
事業者はこうした声にバランスよく耳を傾け、仕事ぶりへの公平な評価を行うとともに、加算額を適切に配分することが非常に大切となるでしょう。
◆ 課題も多い直接支給
私は介護従事者が最も強い不満を抱いている点として、加算がまず事業者の手に渡るという制度の仕組みがあげられると思います。事業者の裁量で配分するのではなく、個々の介護従事者へ直接支給して欲しいという声をよく聞きます。
しかしながら、全ての介護従事者を行政が正確に補足することの難しさや自治体の人材不足の問題などから、実現の可能性は現時点では極めて低いと言わざるを得ません。マイナンバーの普及や利便性の向上などの進捗を踏まえ、中長期的に検討を進めていくことが必要だと思います。
ただ万が一、個人に直接支給できる仕組みが構築されたとしても、それは勤務時間などに応じた一律の配分となってしまいます。個々の職位、専門性やスキル、能力、働きぶりなどの評価が反映されることはありません。事業者が適切な評価を行い、納得感のある配分を実現することが大変重要ではないでしょうか。
◆ 職場の見極め力が重要
介護従事者の方々は、処遇改善の施策に対する疑問や不満が少なからずあると思います。これまで解説してきた内容を踏まえ、適切な職場を選ぶことこそが何よりも大切であり、今後は職場選びの見極め力が一段と重要になります。
介護従事者の多くは、希望するサービス種別と職種、自宅からの利便性、待遇面などの表面的な情報のみで職場を選択する傾向にあります。そうではなく、経営力のある会社、利用者を大切にする会社、職員を大切にする会社などといった視点から、自分に合う会社を見極めて選ぶことが大切です。
また、処遇改善加算については、正しく配分している会社、丁寧な説明が行われる会社、適切な評価が行われる会社といった視点が大切になります。幸いにも、将来も含めて有効求人倍率は高まる一方です。一部の地域を除けば、介護従事者が働く職場を存分に選ぶことができる環境を、最大限に活かして頂きたいと思います。
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