《 全国介護事業者連盟・斉藤正行理事長 》
政府が今週中にまとめる新たな経済対策で、来年2月から介護職の給与を月額6000円引き上げる案がメディアで報じられました。まだ確定した情報ではありませんが、恐らくはその方向性で議論が進んでいくと予測されます。【斉藤正行】
そこで今回は、介護職の処遇改善の動向と次の報酬改定のゆくえとを併せて論考していきます。
◆ 更なる賃上げも十分あり得る
まず、今回の6000円増の処遇改善について改めて解説しておきたいと思います。
この政策が実現された際の対応は、あくまでも今年度の補正予算による経済対策の枠組みであり、来年度の報酬改定とは基本的に別となります。もちろん、次期改定にも大きな影響を及ぼすことになるとは思いますが、この政策決定により、次期改定での処遇改善も6000円増のみと確定するわけではありません。
経済対策による処遇改善が実現されれば、来年2月から、先行して補正予算による手当が行われます。介護報酬ではなく税金の措置となるため、追加の利用者負担もありません。
そして、年末までに決定される次期改定の全体改定率を踏まえ、基本報酬や各種加算に財源が割り当てられ、更なる処遇改善加算の拡充が実現するかどうかも決定されます。もちろん、その結果、処遇改善はトータル6000円増だけで終わってしまう可能性もありますが、更なるプラスも十分にあり得ると思います。
◆ 6月の改定施行が現実的
また現在、次期改定の施行時期を、これまで通りの4月から診療報酬改定と合わせて6月とするスケジュール変更案も検討されています。私は、介護報酬も6月改定になるのではないかと予測しています。
次期改定では、現在3種類ある処遇改善関連加算の1本化が予定されています。1本化が実現された場合、事業者は対応方針を決め、就業規則、賃金規程などの見直しも行わなければならないことから、従来のスケジュールでは対応が難しく、6月改定が現実的ではないでしょうか。
その場合には、今回の経済対策による6000円の賃上げは来年2月から5月までの4ヵ月間となり、6月からは1本化された処遇改善加算に6000円が組み込まれることになるでしょう。年末に決定される来年度の全体改定率から処遇改善への割り当てがあれば、更に金額が上乗せされた新しい処遇改善加算が開始されることになります。
◆ 事業者の事務負担、経営支援も忘れずに
このような背景を考えると、今回の経済対策による6000円増は基本的に歓迎すべきことであり、介護職の処遇改善を目指す政府の姿勢の表れだと思います。
もちろん、6000円だけでは処遇改善額として十分でないことは言うまでもありません。しかしながら、次期改定での更なる処遇改善に向けた第1弾と考えれば上々ではないでしょうか。
他方で、介護事業者の立場とすれば、今回の改善は経済対策による対応となるため、補助金などの取得に向けては、別途で計画書や報告書の事務手続きが発生することになります。できれば、数ヵ月後の次期改定で一気に対応して欲しかった、というのが本音ではないでしょうか。だからこそ、次期改定での処遇改善関連加算の1本化による事務の簡素化は大胆に実現して頂きたいと思いますし、そこは期待できる中身になると思います。
加えて、介護職の処遇改善のみならず、コロナ禍と物価高騰によって大きな打撃を受けた介護事業者の経営の安定を取り戻す措置も不可欠です。大幅な基本報酬の引き上げを同時に実現しなければ、介護職の雇用の安定にもつながりません。
6000円増のゆくえとともに、次期改定での更なる処遇改善と全体改定率の決定に、これから大きく注目していきたいと思います。
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