【介護報酬改定】訪問介護のサ責、介護福祉士限定に反対 今は理想より現実を直視せよ=結城康博

  2023/10/10
         

《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》



訪問介護員(ホームヘルパー)の有効求人倍率が約15倍と人手不足感が尋常ではない。介護業界全体で慢性的な人手不足が問題となっているが、訪問介護は最も深刻化している分野だ。【結城康博】

このため来年度の介護報酬改定では、身体介護・生活援助の基本報酬の大幅な引き上げが必要と考える。国の審議会でもこうした声が少なからず出ているようで、今後の動向に期待したい。

一方で気になる議論もある。サービス提供責任者(サ責)の資格要件を厳格化すべきではないか、というものだ。今回はこの問題について考えてみたい。

◆ サ責の資格要件について
現行の訪問介護の運営基準でサ責の資格要件は、
(1)介護福祉士
(2)実務者研修修了者
(3)旧ホームヘルパー1級課程修了者
などのいずれかを満たす職員となっている。審議会では主に事業者で組織する団体などから、これを介護福祉士のみに限定すべきとの提案が出ている。筆者なりにそのメリットを解釈すれば、サービスの質の向上につながったり介護福祉士やサ責の地域向上に寄与したりすることがあげられる。

◆ 後継者育成に逆行
確かに、サ責を介護福祉士に限定することは理想論から考えれば間違いではない。登録ヘルパーだけでなくサ責まで国家資格を持っていないとなると、重要な在宅介護の「まとめ役」としての資質に疑問を感じる人もいるだろう。他職種との連携・調整を円滑に進めるうえでも、サ責はやはり介護福祉士が担っていることが望ましいのではないか。

しかし、このような方向は訪問介護の担い手の後継者問題を最優先に考えると適切ではない。介護労働安定センターの調査結果では、仕事の悩みを問われ「人手が足りない」と答えた介護職はサ責が最も多いと報告されている。


なお、この調査によるとサ責の平均年収は399万円と介護職の中では高い。ただし、他の産業も含めた平均年収の458万円(*)と比べると依然として大きな格差がある。介護業界は労働市場では依然として明らかな劣勢であり、サ責の給与水準とて非常に厳しいのが現実だ。

* 国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査結果」。1年を通し?て勤務した給与所得者の平均給与。


◆ サ責の業務スキル
そもそもサ責の業務では、もちろん介護(ケア)の側面も重要なものの、よりマネジメント業務が求められる。例えば、登録ヘルパーの調整、サービス担当者会議の対応(ケアマネジャー対応含む)、訪問介護計画書の作成(アセスメント、モニタリング含む)、利用者の契約・苦情の対応、登録ヘルパーの代替(急な介護業務)などである。

筆者の卒業生も何人かサ責の業務に従事しているが、魅力がありつつも「負担」が多く、必ずしも給与に見合った労働環境ではないと聞く。

◆ ケアマネの二の舞いに
仮に来年度の介護報酬改定で、サ責の資格要件を介護福祉士に限定するとしたら、たとえ一定の経過措置を設けたとしても、サ責の人材不足が更に加速するに違いない。

私は順番が違うと言いたい。まずは抜本的な処遇改善を実施し、1人でも多くの人材に訪問介護に従事してもらうことを最優先とすべきだ。

今の時点で資格要件を厳格化すれば、業界の理想についてこれずに離れていく人材が多いのではないかと懸念する。これはケアマネ試験(介護支援専門員実務研修受講試験)の受験資格の厳格化をみても明らかだ。ここは当面、理想よりも現実を見て今の訪問介護の存続を考えていく方が賢明ではないだろうか。

※当記事は掲載日時点の情報です。                       

"介護ニュースJoint引用"